嘘つきは殺される

舌の根も乾かぬうちに

某有名な探偵アニメの劇場版について

 この記事のタイトルで何のことだか分かる人がいるのかどうかと、反対にこのタイトルのせいで作品を純粋に楽しみたい人が本記事を見ないかどうかの二重の不安を抱えている。

 某探偵アニメの話をしたいと思う。

 ほとんど誰しもが一度は通った道である、あの某国民的アニメのことだ。アニメが放送されたのは今から20年以上前のこと。これを書くにあたって調べてびっくりしたのだが、連載が始まったのもほぼ同時期、連載開始後すぐにアニメが放送されていたらしい。すごい恵まれた作品だ。

 もちろん私も例に漏れずハマった一人で、最初は小学生の時に放送しているアニメをきっかけにして漫画を読んだ。図書館やら児童館、友達の家にある漫画を借りて、初めからその時の最新刊まで読んだと思う。

 それから十数年経って、再びハマった。きっかけは、某アニメが毎年GWごろになるとやる「劇場版」だった。これも調べてびっくりしたのだが、あの劇場版がやっていたのが2016年とのことでもう4年も経っているらしい。まさしく、ハマっていた気持ちを「再燃」させ、記憶からもう遥か遠く離れていた原作を読み返して内容をおさらいし、当時はまだ登場していなかったキャラクターのことを勉強した。私がドはまりしたきっかけとなった劇場版某作は、ちょうどその私が読んでいたころにはいなかったか、もしくは登場して日が浅いために私は彼のことを記憶していなかった。

 唐突だが、私は腐女子である。

 もちろん、彼のことをそういう目で見た。私みたいなオタクがたくさんいたから完全に「腐女子が群がる作品」として認知されていたと思う。今も、シリーズ全体としてされているのかもしれない。まあでもそもそも腐女子はありとあらゆる作品に湧くので、作者がそういうことを意図していなかった場合、「腐女子が群がる作品」という世間の認識は完全に誤りなんだけれども。だってそうレッテルをつけてしまうならば、世に出ている作品のうち登場人物に男が2人以上いればすべて「腐女子が群がる作品」と言わなければいけないから。

 その、ドはまりした某アニメの劇場版の昨今の流れについて、少しだけ話したいと思う。これだけ作品名を伏せていた(特に意味を為さないものではあるが)ことから察して欲しいが、ここからは某劇場版の昨今の流れに批判的かつ懐疑的な話がただただ私の主観で続くので、普通に好きな人は読むのをやめたほうがいい。

 ドはまりしたあの劇場版については、劇場版を見るために何度も映画館に通ったし、円盤も買った。もちろんいつものトンデモアクションを実現するウルトラ身体能力(高速道路を逆走してタンカー一台爆発させてもなお一人も犠牲者が出ない世界の住人は体が鋼でできているに違いない)、びっくり発明(サーモグラフィで髪型を確認できるのはさすがにどうかと思った)、ご都合主義の設備(遊園地の医務室にCTスキャンはさすがにいくらなんでも過剰設備では?)、ちょっとだけお粗末な背景(歩いている人々の3Dモデルがカクカクしながら滑ったり)など、現実と違うとかリアリティに欠けるなんてところはキリがないのであくまでも「子供向け」の側面は強い作品ではあるけれども、そういうところも含めて評価しても面白いと思った。

 その後、一応ちゃんと最新作まで毎年劇場版はみている。一時期ほどの熱はなくなってしまったために、アニメも、漫画も読んではいないけれども。

 すでにジャンルを離れてしまった人間の戯言なので、不愉快だったら見なかったことにして欲しい。

 私は自分がはまった2016年の翌々年に、同一人物に焦点があてられた劇場版が作られたことが何となくもやっとしている。今回書きたかったのは、この話だ。

 先ほども言った通り、私は腐女子で、かつ2016年の劇場版にハマり、小学生以来作品を読み返して「ハマり直した」タイプである。つまり、2018年の劇場版の主人公のことはめちゃくちゃ好きだ。むしろ彼のために原作を読み返したし、アニメも何年かぶりにリアタイしたし、その一年前の劇場で彼の声で予告編が流れた時に絶対に観に行こうと思って、もちろん劇場まで足を運んだ。主題歌がかっこよかった。紅白で流れた時にテンションが上がったのを覚えている。

 それでも、2018年の作品で「彼」が主人公として劇場版が作られたことが何となく嫌だなと思う。

 2018年の劇場版は良かった。作品としては面白かった。例年に比べて明らかに作品の内容理解のための難易度が上がっていたことも、「見ごたえ」があった。探偵モノというよりもどちらかと言えば刑事モノ。当然だ、主人公の彼が警察なのだから。

 でもそれが、嫌だなと思ったポイントでもあった。

 警察に焦点を当てるのはいい。探偵は推理をして犯行の手口と犯人を明らかにすることはできるが、犯人を捕まえる専門技術を持っているのは警察なのだから。事件解決のためには探偵と警察は手を組まなければいけない。

 ただ、「見ごたえ」があった。あの時の、純粋な気持ちで作品を見ていた小学生のときの私ではない大人の私が見て「難しい」と感じた。警察内部の機関についての説明などが簡単に劇中でもあったが、多分あれはそもそも刑事ドラマなどで各機関の名前を知っていなければ分かりづらかったと思う。先述もした通り、このシリーズはあくまでも「子供向け」である。でないとしたら、さっきスルーした超人アクションも、もはや魔法の域の発明品も、ご都合主義で用意される設備たちも指摘しなければいけなくなる。

 難しくなった2018年の劇場版にも、そういった指摘をできる箇所はいくつでもあった。でもこの作品にそれをするのは野暮だ。時々地上波アニメ版に登場する拳銃の作画がお粗末だとか指摘されているときもあるが、再放送含めてとはいえ毎週放送されているあのアニメに対してどれぐらい作画に力を入れられるのかは察するところがある。だから、「リアリティがない」という話は的外れな指摘になる。「ご都合主義なことがこれぐらいのレベルでは起きる世界だ」って納得した人だけが見られる作品であって、あくまで「子供向け」の世界だからだ。

 でも、2018年のは、舞台は子供向けなのに内容が大人向け、そんなアンバランスな印象を受けた。もちろん、原作ではシリアスな回もあるし、連載当初のほうを見ると子供向けとは思えない残酷描写がたくさんある。それでも劇場版は、「子供向け」として作られている印象が強かった。でも、2018年は違うと思った。

 2018年は、大人向けに、「彼」を主人公として、物語の内容も複雑になったんだ。

 映画を見終わった時に、私はそう思った。そしてそれは、私がこの作品シリーズ、劇場版に求めていたものではないし、もっと大きな「大人の影」が見えたような気がして嫌な気持ちになった。

 「彼を主人公にしておけば、大人が沢山見に来て興行収入が上がる」という欲望を、そのまま叩きつけられたような気がしたのだ。

 劇場版は一年に一回しか作られない。だから、スポットが当たらないキャラも沢山いる。物語のキーとなるキャラクターたちが一つの話に全員出てくるのは無理な話で、だから劇場版はその年によって「誰にスポットが当たるか」が変わる。

 2016年の劇場版で彼が物語の中心になるキャラクターになったのも、今まではなかったから順当だったと思う。連載本誌を追っているわけではないので正確には把握していないのだが、劇場版が公開してから少し開いて、本誌でも彼の過去に触れる重要な話が連載された。そこから更に彼のキャラクターに深みが増して、ファンがついたというのがもちろんあるだろう。そういうタイミングを見計らって、「人気が出るように」劇場版を作ったんだと思う。

 でも2018年は、2016年でスポットが当たったばかりの彼がまた主人公に据えられた。なぜ? まだ全然焦点が当たっていないキャラがたくさんいるのに。2016年に「人気」になったからこそ、2018年の主人公に選ばれた、のだろう。それこそが理由だ。でも、「彼を出しておけば金を出すだろう」と思われていたような気がすることが、「彼のことは好きでも作品のことはそんなに興味ないんだろう」と思われていたような気がしてしまって嫌だった。

 そして内容が難しくなったと思ったのも、「子供向け」であるはずのコンテンツが利益のために元来ターゲットとしていた「子供」を置いてきぼりにしているような気がして嫌だった。

 劇場版は、お金が無いと見に行けない。子供たちの多くは親に連れてきてもらって劇場に足を運ぶだろう。だから、そもそもターゲットとして「大人」が入っているとしても、「子供」を置いてきぼりにするのはコンテンツの姿として違和感しかない。

 金儲けは大事なことだし、お金が儲からなければ翌年の映画を製作する費用もコンテンツを維持していく費用も出すことができない。でも、お金儲けをするにしても、ターゲットとして「子供」が外されて、「大人の、お金を出すオタク」にだけ向けられているようなコンテンツは作って欲しくない。私が好きになったのは、「子供向け」作品であるコンテンツだし、その中でのいろいろなドラマとかを「大人目線」で勝手に楽しんでいる立場でいたかった。

 彼をお金儲けの道具にするのは、商業としては大歓迎だ。グッズは儲かるだけ作ればいいし、彼のスピンオフ漫画も、薄くて高いガイド本もどんどんやればいいと思う。

 でも、「大人向けにシフトチェンジして子供のことは特に考えてないんだな」と、劇場で思いたくなかった。予告編を聞いた時から、「あれ、なんで1年前にやってたのにまた彼なんだろう。やっぱり儲かるからかな」と思ったし、「他のキャラの話はまた来年以降に回されたのか」と思ったし、劇場で実際に作品を見たら「えっ、これ子供は本当に理解して楽しめた…?」なんて、思いたくなかった。

 多分、私は次の劇場版も映画館で始まったら観に行くし、感想は「面白かった~!」と言うと思う。でも、次の中心的キャラクターは2016年の劇場版で先ほどから何度も登場する「彼」と一緒に中心キャラとなって見せ場を貰っていたキャラだ。2020年の劇場版はこのキャラを中心にすると知った時に、「あー、人気だから儲かると思ってるんだろうな」と思った。でも、私のその感想は割と的外れだ。彼を明確に中心に据えた劇場版からはもう10年以上経っており、2016年に出番があっても4年空いているからそろそろ新作に来てもおかしくない。

 ただ、今度こそは、2018年みたいに「私は大人だから面白かったけど、」と思うことなく劇場から出ることができたらいいなと思っている。